National Theatre at Homeに支えられた2020年のこと
Lilyさん主催のナショナル・シアター・ライブ(NTLive)10周年記念企画 Advent Calendar 2023 12月9日をお送りします。麻こと柳川麻衣と申します。
ナショナル・シアター・ライブ(以下NTL)、十周年なんですね!
私がNTLと出会ったのは2017年でした。知ったきっかけは何だったんだろう、ツイッターかな? 初めて観た作品はロリー・キニアの『三文オペラ』。友だちと一緒に行きました。珍しい!(今はひとりで観に行くことが多いので)
以降2019年までは、上映情報はチェックしつつ、タイミングが合えば気になった作品を年に2本ぐらい観る程度だったのですが、2020年を境に私のなかでNTLの存在感は爆発的に大きくなりました。
2020年、そう、COVID-19の蔓延です。
あの突然の緊急事態宣言はもう三年以上も前になるんですね……。
私は十代の終わりからほぼ四半世紀に渡って、平均するとだいたい月に一回以上は好きなバンドのライヴに行く生活をしていたのですが、手元にあった12枚のチケットがすべて払い戻しになった2020年を境に、ほぼまったくライヴに行かなくなってしまいました。
娯楽が壊滅状態で、家族や友人に会うこともままならず、ひとり暮らしの1Kで悶々としているしかなかったあの2020年の春先、私を支えてくれたのがナショナル・シアターの無料配信、National Theatre at Homeでした。
NTLを最初に知ったとき「映画館だと日本語字幕があるから現地で生観劇するより見やすいのでは? 最高!」と思った程度には英語に苦手意識があります。ミュージカルはともかく、ストレートプレイを英語字幕で観るのはハードルが高い……というしり込みは当然ありました。
でも他の楽しみが全部潰れたし。あと無料だし。
主に「無料」の部分に背中を押されてこの配信を観はじめたことが、そのとき思った以上にその後の私を変えました。
このとき配信で観た作品から、とくに印象深かったものを3つ挙げてみます。
『フランケンシュタイン』
完全に予習なしで臨んだにもかかわらずめちゃめちゃ入り込んで観てしまい、英語字幕のおぼろげな理解でも面白がれるんだ……! という成功体験を得た作品。
細部はかなり取りこぼしていて、とくに怪物の伴侶を作ろうとするあたりはまっったくわかってなかったな……と後日映画館で日本語字幕付きで観てしみじみ思ったりもしたのですが、でも、英語で観てよかったなあと今でも思っている作品でもあります。
最終盤の怪物と博士のやりとりがものすごく好きで、「Don't leave me alone」「All I wanted was your love」「You, I desire」とかもう、大興奮したのを覚えています。いちいち止めて字幕を読みながら(笑)「I don't Know what love is」が博士のセリフで、怪物が「I will teach you」って応じるのとか、うわー!!!! だった。
両ヴァージョン観ましたが、「マッドサイエンティストなベネ博士×人間になりたいのになれないJLM怪物」と「野心が暴走して人間から遠ざかってしまったJLM博士×善くも悪くも無垢なベネ怪物」という印象です。どちらの役でもカンバーバッチは人間味がうすく、ジョニー・リー・ミラーは人間らしさを感じました。個人的にはJLM博士×ベネ怪物のほうが観やすくて好きです。ベネ博士×JLM怪物だと博士も怪物も残虐さが際立つというか、エリザベスの暴行シーンとかちょっと辛すぎるので……
『欲望という名の電車』
これは予習なしではきついだろうなと思い、事前にヴィヴィアン・リーとマーロン・ブランドの映画を観てから臨みました。
私は『X-FILES』のファンだったのでジリアン・アンダーソンには思い入れがあり、それこそ30代のダナ・スカリー捜査官の印象が強いジリアンが50歳になって「30歳の役を演じることに限界を感じている50歳の大女優」に扮した『イヴの総て』も感慨深く観たのですが、これもすごくよかったです。
ブランチは見栄っぱりで男に依存していて虚言癖のある困った女なんだけど、王子様を夢見る女の子のまま歳をとってしまったという感じですごくかわいらしくて、可哀想だった……「ミッチが欲しいの?」とステラに訊かれたブランチの「休息が欲しい」という答えは映画でも胸が詰まったけど、「I want to rest.」のあとに「I want to breathe easy again.」という台詞が続いて胸が潰れそうになりました。「I want magic.」のあとにも「I try to give that to people.」って続くんだよね……男たちは真実をよこせってブランチに迫って彼女を嘘つきだって罵るんだけど、そもそも「magic」を最初に欲しがったのは誰だったのか。
つらい話ですが、映画より舞台のほうが幻想的に見えるので若干つらさがやわらぐように感じました。
『コリオレイナス』
そしてこれ、これ(と『ホロウ・クラウン』)が決定打になってこの年の夏以降はトム・ヒドルストンの出演作を漁ったりシェイクスピアを読みなおしたり英語学習に目覚めたり、いろいろずぶずぶになりました。『コリオレイナス』に関しては必死になりすぎて2020年の小澤みゆきさんが主催なさった「文芸アドベントカレンダー」の参加記事でもその話をしているので、ご参照ください。「文芸」なのにトムヒの話をしてほんとうにすみませんでした……
いや~ほんとうにみんなに観てほしい。アンコール上映がかかったら絶対にまた観たいのですが、ないだろうか……
2020年は劇場でも『リーマン・トリロジー』『スモール・アイランド』『夏の夜の夢』『プレゼント・ラフター』『シラノ・ド・ベルジュラック』などまめに観に行きました。夏と冬のアンコール祭りもがんばったし、とくにお盆休みに毎日シネ・リーブル池袋に通ったことはあの虚無だった2020年の楽しかった思い出です。ありがとうNTL……
2023年も公開された7作のうち6作観られたし、年末年始のアンコール祭りも日程が出るのを楽しみに待っています。
日本にいながら(とはいえ上映劇場が圧倒的に都市部なので、ほんとうはもっとあちこちで観られるようになってほしい……集客とか、いろいろ難しいのでしょうが……)最悪なことばっかり起きている今の世界を生きていても、日本語字幕付きで英国演劇を楽しむことができるNTLがあることだけは「いい時代になったな……」と思います。
そうそう、NT at Homeは有料ではありますが続いています。サブスクリプションだけでなく単品のレンタル視聴も可能だったはずです。字幕が英語のみというのが厳しいところですが、英語字幕で観るからこそ受け取れるニュアンスもあると思うので……あと英語学習のモチベーションにもなるかもしれないし……私も「いつかナショナル・シアターで生観劇したい!」という夢ができてからラジオ英会話とかめっちゃ真面目に聴くようになったし……
というわけでこれからもNTLを楽しんでいきたいと思っています!
明日はみなみさんの記事です。ベスト3に言及されるかも……とのこと。ちなみに私のベスト3は
『コリオレイナス』
『夏の夜の夢』
『ハンサード』
です!
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